パネリストご紹介

吉田 和彦 さん
NPO法人キャンサーネットジャパン 理事長

プロフィール
1980年 東京慈恵会医科大学卒業
1980-1984年 虎ノ門病院外科勤務
1984年 東京慈恵会医科大学第1外科学教室入局
1986-1988年 米国メモリアルスローンケタリングがんセンター留学
2000年− 東京慈恵会医科大学外科学講座助教授
2004年− 東京慈恵会医科大学附属青戸病院外科診療部長・副院長


このシンポジウムへの意気込み

 パッチ・アダムス(本名:ハンター・アダムス)著の「パッチ・アダムスと夢の病院」(主婦の友社)の中で、マシュー・A・バッドは「医療技術の進歩によって、不治の病と思われていた病気にも救いの手がさしのべられるようになった時期から、医師と患者さんとの間で戦いが始まった」と述べている。医学・医療に対する過剰な期待、生老病死を自然と実感できなくなったこと、マスコミ・警察・検察・行政などのポピュリズムなどは、両者の関係をさらに悪くしているように感じる。

 私は慈恵医大青戸病院の外科を担当しているが、患者さん・家族は「腕の良い外科医が誠実に手順を踏んで手術すれば結果は良好である」と考えがちである。一方、手術の結果が悪かった場合には、「結果が良くないのは手術に問題があったことが原因である」ととらえられることも多い。「お任せします」と言われても医師は困るし、ましてや「お任せします」と言いながら、失敗・再発したと文句を言われるのはもっと困る。医師とて全知全能ではなく、生命の有限性と複雑性、各個人の多様性、医療の不確性などの前提なくして、医療を行うことは困難である。

 最近では権利意識の強い患者さん・家族も多い。思いやりと優しさをもって医療活動を行っている医師であっても、一度クレームや訴訟を経験すると、その喜びが奪われ、患者への慈愛の心も薄れる。産科、小児科、外科系診療科などはリスクが高く、労働条件が悪いということで、現場では「立ち去り型サポタージュ」が進行している。

 では、患者さんと医師の不幸な関係を是正する処方箋はあるのだろうか。米国ではこの20〜30年の間、科学的根拠に基づく医学(EBM)の興隆もあり、患者さんと医師の関係はパターナリズムから、パートナーシップへと変化した。患者さんは自分にとって最高の医療を受けるために、自身が主体となって治療に参加しつつある。

 患者参加型医療では、患者は責任を持った賢者、一方で医療者は思いやりを持って高い知識と技術を提供する補完的な存在となる。医師には医療の透明性を確保し、説明責任を果たすことが求められる。加えて、情報を取得・評価し、意志決定や決断ができる「賢い患者」を養成することに、医療側も積極的にかかわるべきである。私が属するNPO法人キャンサーネットジャパンでは「乳がん体験者コーディネーター養成講座(BEC)」「がん情報ナビゲーター養成講座(CIN)」などを開始した。がん患者さん・家族にとって頼りになるコーチ役となるように、心構えや知識を吟味するスキルなどを教えている。
 治るか治らないかわからない病気を共に治そうという合意の下に行われるのが、治療という共同作業である。医師は医療の新たなパラダイムに合致したスタンスを取る必要がある一方で、患者さんも覚悟し、勉強することにより、両者は対等となる。両者が親しく尊敬・信頼しあえるパートナーとして危難を乗り越えることができれば、強い絆が生まれ、絆は友情へと深まると信じる。


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