入院したとき、看護師さんから「パス」を手渡された経験はありますか。「パス」とは、「クリティカルパス」の略で、医師・看護師・検査技師・理学療養師、管理栄養士などの医療チームが、入院中に行う治療や看護、検査やリハビリテーション、食事などの予定を時間軸に沿ってまとめた治療計画書のことです。入院から退院までの経過が目に見える形で示されるため、患者さんにとっては入院生活がイメージしやすく、治療の経過を日々追うこともできるため、とても好評のようです。
しかし、パスはあくまでも順調に経過した場合の見本なので、症状や治療状況によっては計画通りには進まず、治療期間や治療内容を変更することもあります。
私たちの身体はきわめて多様で、同じ治療をしても必ずしも同じような経過をたどるとは限りません。特に手術を行わない内科を主とする病気では、個人差が大きすぎて、パスが作れないことのほうが多いくらいです。
患者の権利や医の倫理について提言を続けた故・中川米造さんは、著書「医学の不確実性」の中で、「医学が科学であるとするならば、科学とは宗教や哲学とちがって、絶対的な確実性を主張しないという点に特質がある」と述べています。不確実な要素が多い中で、少しでも明日への期待がもてるように、未来を可視化する努力が懸命に行われているのです。
参考
- クリティカルパス・ライブラリーで、クリティカルパスの閲覧・ダウンロードができます。